『三河・佐久島アートプラン21』がスタートして今年で11年目。毎年行われるさまざまな展覧会やワークショップ、島の伝統文化に触発されたかたちでアート・イベントなどを開催してきた。その中でも、初年度である2001年からずっと続いているプロジェクト最古（？）のイベントがこの『提灯行列』だ。

提灯行列は、崇運寺で開催される江戸時代から続く盆踊り『ヤートセ』に観光客、帰省客、東地区の島民を誘導することが一番の目的である。しかしながら、島内には公共交通機関がない。東地区から西地区の西外れにある崇運寺まで約２キロ、真夏の、街灯もない真っ暗な道をどのように大人数を移動させるか、不便に不便が重なる状況を逆手に取り、「歩くことそのものを楽しみに」ということで考えたのがこの『提灯行列』である。

当初は、島内で出た「ゴミ」であるペットボトルを集め、アーティスト松岡徹の指導で「手作り提灯」のワークショップ作りをおこなった。一人何個か作ってもらい、ひとつは持ち帰ってもらい、ひとつは提灯行列の参加者に使ってもらうために島においていってもらった。現在はそれを毎年修理しながら利用している。

今年で10回目（途中2回は中止）となる提灯行列も、少しずつ進化をしている。たとえば、ある年の風の強い日に行われた行列では、スタート地点の海水浴場からしばらく、海辺を歩くため、強風のために提灯の灯りが消えてしまう、というアクシデントがあった。その後、丈の短いロウソクを使うなど、いろいろな問題点が徐々に改善されている。

何年目からか、戦前は『ヤートセ』の先導役の島民が着ていたが長らく仕舞い込まれていた裃（かみしも）・袴（はかま）を島民から借りて、提灯行列の先導役の男性たちに着てもらっている。先導役は現場で島民やアーティスト、役所の人や観光客をスカウトして決めている。今年は一色町役場の担当者の方、祭りの手伝いに来てくれたボランティアの男性にお願いした。　彼らの先導で、提灯行列は大浦海水浴場を出発し、西公民館で「祭り舟」と合流した後、一路崇運寺のヤートセ会場へと向かった。

大浦海水浴場を午後６時半にスタートした提灯行列は、約30分かけて街灯もない家もないフラワーロード（佐久島の西と東を結ぶ主要道路）を歩いた後、西地区の集落に入る。ゴール地点の崇運寺へ行く前に、西公民館で「祭り舟」と合流することになる。 「祭り舟」は、戦前から戦後少しの間島で行われていた祭りの行事である。島民は「山車（だし）」と呼んでいるが、一般的にイメージする山車とは違い、元々木造の伝馬船の上に張りぼての鯛や、人形などを飾った「佐久島風山車」だった。伝馬船にロープを付けて、みんなで「伊勢音頭」を唄いながら、合いの手の「ヨイヨイ」というところでロープを引いて少し動かし、また唄い、また動かしながら崇運寺へと向かうというもので、昔はずいぶんにぎやかにおこなわれていたそうだ。

約50年前にその祭りは途絶えてしまったが、島の古老から時折その祭りの話を聞かされていたので、改めて島民に昔の話を聞き、アートプロジェクトが主導となって祭りを復活したのが５年前だった。祭り舟はアーティスト・松岡徹とボランティアによって制作された。本来は昼の祭りだったが、ヤートセの時間に合わせて夜の祭りに変更し、そのため照明効果も兼ねて人形の中に照明を入れた。

祭り舟を先導する「伊勢音頭」は、ヤートセと同様、当時の流行り歌だった。上方落語の中くらいでしか聴く機会のない伊勢音頭を、海辺で漁師たちのかけ声で聴くことができるのは、印象的な体験である。ゴールの崇運寺は高台にあって、そこへは昔から「二十段」と呼ばれる石段があり、祭り舟は力のありそうな男性たちに担がれて二十段を一気に崇運寺へ駆け上った。大変な迫力で、観客からは大きな拍手が湧きおこった。

その後、崇運寺の盆踊りを見守るように祭り舟の「鮹＆佐久島観音くん（鯛付）」は境内の一角に置かれ、行列の参加者達も江戸時代から続く伝統の盆踊り「ヤートセ」の踊りの輪の中に入って楽しんだ。祭りとアートの絶妙なコラボレーションで、かつてにぎやかだった、佐久島の伝統の祭りの晩があざやかに再現された。

（文責：オフィスマッチングモウル
　　　　森田潤子）