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特集記事 5
 
山口潤子の スペイン旅行記 1



年始のバタバタと3月の怒涛の忙しさの合間を見計らって、2月6日〜13日の8日間、私、山口は友人と2人で、バルセロナに滞在中のアーティスト松岡徹さんを頼って、憧れのスペインへ行ってきました。ここでは、素晴らしい作品、そして素敵な人とたくさん出会えた感動のスペイン旅行の様子をみなさんにご報告します。
 
2月6日(日)晴れ

いざ出発
朝5時32分発の電車に乗って、名古屋空港へ向かう。まだ外は薄暗く寒い。しかし気分はそのまったく逆。よく入学式などで耳にした「期待に胸を膨らます」っていうのは、まさに今の気持ちのこと。ウキウキしていると、乗り換えの駅で電車を乗り過ごしそうになるが、しっかり者の友人が気づき、かけ込み乗車でギリギリセーフ。早くも珍道中の予感。うかうかしていられない。名古屋空港へ到着し、チェックインカウンターと手荷物検査が長蛇の列でまたもやハラハラするが無事終了。搭乗手続きが始まるまで、あと2週間したら中部国際空港が開港し、そうなればもう来なくなるこの空港をじっくり見ておく。人で溢れかえっているこの場所が数日後に閑散とした状態になるとは信じられない。
 
そうこうしているうちに搭乗時間となり、まずは成田行きの国内線に乗り、約40分であっという間に東京へ。乗り換えの便の搭乗手続き開始時間までしばらく時間があったが、名古屋空港での長蛇の列を思うと不安になり、両替や長旅に備えての準備 (ジャージに着替える、サンダルに履き替えるなど。これ重要) を済ませた後、早めに出国手続きを済ます。家族や友人に、しばらくお別れのメールを送って携帯の電源を切る。
 
日本脱出
日本からスペインへの直行便はないため、まずはドイツのフランクフルトへ行き、そこからバルセロナへ。飛行機に乗り込み、日本からフランクフルトへの約12時間に及ぶ長い飛行が始まった。ANAだったので、機内食の和食はうなぎごはんと充実しているし、おやつは柿ピーが出るし、見たいと思っていた新作邦画が見られるし、気になっていた日本のミュージシャンのビデオクリップが見られるし、機内乗務員は日本語が通じるし、快適な空の旅だった。しかしさすがに長時間座っているとおしりが痛い。たまに友人とストレッチをしたり、スペイン語の勉強をしたりする。
 
必修会話と書かれている「ドンデ エスタ エル セルビシオ? 」を何度も繰り返して真剣に発音する。意味は「トイレどこですか? 」。もしスペイン人に聞かれていたら結構恥ずかしい。また、ガイドブックを見直してはガウディー! パエリア! アルコ! などと嬉しくて叫びたくなる気持ちを抑えて小さな声でつぶやく。しかし、そのうちすることがなくなり、何もせずひたすら時間が過ぎるのを待つ。小さい頃はよくあったこういう有り余る時間は、久々で嬉しく感じる。窓の外をぼーっと見ていると一面に広がる雲海が途切れ、赤い屋根の家々やエメラルドグリーンの池などいつもの見慣れた風景とは全く違う街並みが見えてきた。
 
EUに入国
日本時間の2月7日午前0時35分、−8時間の時差がある現地の時間だと、2月6日午後4時35分無事ドイツへ着陸。タラップも空港内の通路もメタリックで無機質なデザインがかっこ良い空港だ。乗り換え時間が少なくて小走りで移動しつつもいろいろ写真撮影。しかし急いだかいがなく、飛行機は予定時刻30分程過ぎてやっと出発。さすがヨーロッパ。時間通りには行かない。飛行機の乗客もさっきまでの雰囲気とだいぶ違う。ほとんど日本人はおらず、例えば前の座席のスペイン人と思われる中年4人組はとにかく遠慮なく大きな声で絶え間なくしゃべっていてすごく明るい。違う文化圏に来たなぁと思いつつ、窓の外の全体は濃い紫色に染まりかけているが地平線だけオレンジ色に強く輝く素晴らしい夕焼け空に目を奪われていると、まもなく眼下にガイドブックの地図通りの地形をしたバルセロナの街が見えてきた。飛行機は無事到着し、前のおばちゃんたちを始め乗客から拍手が起こる。
 
バルセロナ到着
預けた手荷物を無事引き取り、待っていてくれるはずの松岡さんに果たして会えるかどうかドキドキしながら到着ロビーを出る。外人外人外人、あっ! いたー! 笑顔で手を振ってくれる松岡さんが! 今思えば、実際は手なんか振ってなかったかもしれないし、飛行機が遅れたので心配した顔だったかもしれない。しかしそのときの松岡さんは、まるで佐久島の大和屋観音のように後光がさしているとてもありがたいお姿に見えた。松岡さんは、これから私たちが泊まらせていただく松岡さんが間借りしているアトリエの主である、ジャウマさんと一緒に車に乗って迎えに来てくれた。
 
とても興奮していたのでさっきまで何度も練習していた「ボ ナ ニ」 (こんばんは) のあいさつがきれいに頭から消え、思いっきり日本語で「こんばんは」とあいさつをしてしまったが、ジャウマさんは「こんばんは」と日本語で返してくれた。やさしい。早速ジャウマさんの車に乗り込み、これからバルセロナの市街に住んでいる友達の家へ行くと言うので、一緒につれていってもらう。車の中でお話を聞いていると、ジャウマさんは何度か日本で個展をしており、日本語がだいぶ分かるようだった。通じあえるのって嬉しい。車はびゅんびゅんとスピードを出し、石で出来た高層ビルが立ち並ぶ大通りに接している街のシンボル的存在と思われる立派な噴水の近くで停車した。
 
ここは名古屋で言う“栄のオアシス21や松坂屋の真ん前”のような場所。そんな街のど真ん中に、ジャウマさんの友達のカニャさんという方の家はあり、そのマンションの外観は映画に出てくるような重厚で高級感あふれ、室内もテレビでしか見たことの無いような洗礼されたインテリアで占められており、着いて早々、すごーい! すごーい! の嵐だった。カニャさんと恋人のアナさんは私たちにも両方のほっぺをすり合わせる親しい間柄同士がするあいさつしてくれ、暖かく迎えてくれた。またその場には、小さい頃からバルセロナに住んでいて、ジャウマさんのアシスタントをしている日本人の男の子、ヨウ君もいた。彼はカタルーニャ語がペラペラな上、大人としてきちんと会話のできるすごくしっかりした人だった。このメンバーで、マドリッドで開催されるスペイン最大のアートフェア・アルコに行くとのこと。とても待ち遠しくなった。
 
マドリッドへ行く打ち合わせが終了したら、これから3泊させてもらうジャウマさんのアトリエへ移動。市街地から車で10分ほどの、駅にもほど近い静かな住宅地にアトリエはあった。着いてびっくり。とにかくだだっ広い。そこにジャウマさんの面白い作品がごろごろ置いてある。とても探検のしがいがありそうな場所だがそれはまた後日にして、松岡さんに柿ピーや佃煮など日本のお土産を渡し、2階のシャワー室でシャワーを浴びたら客間のふかふかのダブルベッドですぐに眠った。
 
 
2月7日(月)雨

ポルト・ボウへ行く
今日は松岡さんと3人で、フランス国境近くの小さな町、ポルト・ボウへショートトリップ。しかし、朝からあいにくの雨。バルセロナは傘を持っていない人が結構いるというくらい雨の降らない土地らしい。松岡さんは「日本から内藤さんの霊を連れてきたんじゃないの?」などと冗談を言っていた。というのは、ポルト・ボウは内藤がここにいる誰よりも一番行きたがっていた場所なのだ。ご存知かもしれないが、ここにはイスラエル生まれのアーティスト、ダニ・カラヴァン (Dani Karavan 1930-) が作った作品、『パサージュ』 (Passage) がある。
 
これは、第二次世界大戦中にナチスに迫害されこの町で服毒自殺を遂げた哲学者ヴァルター・ベンヤミン (Walter Benjamin 1882-1940) の追悼記念碑で、海にそそり立つ断崖に突き出したコールテン鋼のトンネルにガラス板がはめ込まれ、そこにはベンヤミンの「有名なひとたちよりの記憶よりも、無名なひとたちの記憶に敬意を払うほうが難しい。歴史の構築は無名のひとたちの記憶に捧げられる。」ということばが刻まれているという。この作品のマケットと資料を展覧会で見た内藤は衝撃を受け、いつか見たいとずっと思っていたそうだ。そう熱く語る内藤からその作品の存在を知った私たちは是非行きたいと思い、松岡さんの学校がお休みの今日、3人で出かけることにしたのだ。
 
バルセロナ・サンツ駅のカフェで朝ごはんをとってから9時半発のポルト・ボウ行き電車に乗り込む。途中、「世界の車窓から」に出てきそうなのどかな草原やお城のある風景を車窓から眺めながら、明るくなったり暗くなったりする空にやきもきして約3時間、終点のポルト・ボウへ到着。駅は小さいながらも線路が多く、電車もたくさん止まっており、国境の街であることを感じた。天気は朝より雨脚が強まり、海は日本海と見間違うほど白波がたち、地中海とはとても思えない大荒れ模様だった。詳しい作品の位置が分からなかったが、とにかく海へ向かう。途中で迷ったが街の人に聞いて、駅から10分ほど歩くと作品のある崖へたどり着いた。
 
茶色のコールテン鋼の入り口が見える。近づくとそこから崖下の荒れ狂う海へと階段続いているのが見えた。しかし水面の手前に文字の刻まれたガラスがはめ込まれていて海までは降りられない。一歩一歩階段をくだってみる。全身の神経を使って作品を体感する。泣いているような、怒っているような天気のせいもあってべンヤミンの死の悲しみが伝わってきた。10メートルほど離れた裏山にもう一つ短い階段と見晴らしのいい場所にイスがあった。また、説明看板を見ると階段の先の海底にも何かがあるようだった。大掛かりな作品なだけあってすごく心が揺さぶられた。感動に包まれながら駅へ戻る。せっかく近くまで来たからダリ美術館のあるフィゲラスへ寄ることに。しかし美術館は月曜のためお休みだった。たまごやパンがくっついている奇想天外な建物が見られたのでよしとして、遅めの昼食をとって早々とバルセロナへ戻る。
 
夜のカサ・ミラ
予定より早く戻れたので、ライトアップをしているカサ・ミラへ行く。カサ・ミラはバルセロナのメインストリートに面して建つ巨大な高級マンション。ずっと見てみたかったガウディーの建築を見られて感激。外観のうねり具合も驚いたが、玄関の有機的な形をした大きな扉も、カラフルで照明がきれいに反射している天井もすごかった。屋上からは、バルセロナの街の夜景が見え、夜にしか味わえないことができて得した気分だった。 帰り道に、買いたいと思っていたカンペールへ寄り、店員さんが日本人だったのでいろいろ希望が言って最終的にとても気に入った靴を購入できた。
 
その後、デパ地下でえびと野菜とインスタントスープなどを買って、アトリエに戻ってそれらを調理して食べる。えびの身が大きくて味が濃くておいしい。アトリエにはもう一人の アトリエの主、リュイスさんが友達2人とお酒をのんでいた。リュイスさんは奥さんが日本人で、それに越後妻有などに作品を出している人で何度か来日したことがあるらしく、日本語がペラペラでびっくり。しかも関西弁。でももっと驚くことはお酒の強さ。ビールの小瓶が10本くらいと、ウイスキーが1本空になっていたのに、全く平気そうな顔。越後妻有の時は一人で日本酒1升のんでしまったらしい。スペインの人は信じられないくらいお酒が強い。この日もご飯を食べた後、シャワーを浴びたらすぐにぐっすり眠る。
 
 
2月8日(火)くもりのち雨

念願のサグラダ・ファミリア教会
今日は友人と2人でバルセロナ観光。昨日の雨は上がり、まずは念願のサグラダ・ファミリア教会へ向かう。地下鉄サグラダ・ファミリア駅の出口を出ると、もうそこには巨大な塔の一部が見える。全貌が見たくて小走りで教会の正面に行くと、ドーンと「受難」のファサードと4本の塔が目の前に現れる。とてつもなく大きい。チケットを買い、建物の内部に入るとそこは工事現場だった。観光客用の通路以外は足場や材料で地面が埋めつくされ、職人さんがせっせと働いていた。
 
働く人たちに心の中でエールを送りながら、足を進め、入り口の裏側から外に出て建物を見ると、唖然。「生誕」のファサードと呼ばれるガウディー生前に完成した部分に当たるのだが、おびただしい数の彫刻群が建物の壁面を覆いつくしている。これでもか! というぐらいに、細かく、膨大な数の彫刻。立って見たら後ろにのけぞってしまいそうだったので、腰をおろしてじっくり眺める。すると塔の上のほうに人影が見え、上にエレベーターで昇ることができることを思い出す。早速塔に昇ると、バルセロナの街と一緒に、間近で他の塔の細かいモザイクも見えた。ここまで一つ一つ手作業でしているとは、もうすごいとしか言えない。塔を降り、地下にはガウディーや教会に関する資料が展示してあった。中には完成予想図があり、すごくカラフルで生き物のような有機的な形をしていた。人から聞いた話によると、今までは完成はいつになるか分からないと言われてきたが、新しい工法でやれば私たちが生きているうちに完成するらしい。完成したらおばあちゃんになっても見に行きたい。
 
バルで昼ごはん
なごり惜しいサグラダ・ファミリア教会を後にし、近くのサン・パウ病院へ向かう途中に、教会の全景をちょうど見ることができるバルがあり、ここで昼食をとることに。身振り手振りで欲しいものを伝え、非常に贅沢な風景を見ながら食事をする。 食事を終え、一休みしたら、1997年に世界遺産に登録されながらも現在も病院として使われているサン・パウ病院へ向かう。建物は絢爛豪華な歴史的な建物なのに、歩いている人は先生や患者さんなど現代の人たちなのがすごく不釣合いで、この人たちは役者で、先生や患者の役を演じているのではないかと思えてしまうほどだった。
 
感動のカサ・バトリョ
地下鉄で中心市街地へ移動し、つい最近内部を観覧できるようになったばかりのカサ・バトリョへ行く。まず、外観に驚く。まるでお菓子でできているかのよう。そして中に入ってもっと驚く。すごく素敵。外から見ただけでは分からない遊び心にあふれた、楽しくてそして美しい内装。タイルもガラスも何一つ同じものはなく、金に糸目をつけず、好きなようにつくられた感じがした。こんなところに住めるなら、並大抵の苦労は我慢できそうな気がする。今まで見たガウディー建築の中で一番気に入ったので、写真が大きくて迫力のある重たいハードカバーの本を買ってしまった。今日だけで既に3冊目。こうやって私の腕力は鍛えられていくのね。その後、学校帰りの松岡さんと合流して、アントニ・タピエス美術館へ行く。タピエスの作品がたくさん見られるかと思ったら特別展で常設展示もなく、残念。
 
海の近くのレストラン
今晩は松岡さんおすすめの7PORTES (セッテ・ポルタス) という海の近くのレストランでディナー。1836年創業という老舗で、とても落ち着ける雰囲気のお店。ずっと食べたかった海の幸のパエリアやイカ墨のパエリア、アンコウなど、おいしい料理をお腹いっぱい食べて幸せな気分でアトリエに帰る。そして明日からはマドリッドへ向かうため、お菓子などは松岡さんに引き取ってもらい荷物を軽くして、アトリエ最後の夜を過ごす。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
  窓の赤い三角のふちどりがかわいい飛行機
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  豪華だった機内食のうなぎごはん
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  全てが無印良品のようなフランクフルトの空港
 
 
 
 
 
 
  幻想的な夕焼け空
 
 
 
  ここがジャウマさんのアトリエスペース
 
 
 
 
 
 
 
 パサージュを体験する黄色いかっぱの松岡さん
 
 
 
 
 
 
 
 
  照明が反射してきれいなカサ・ミラ玄関
 
 
 
 
 
  これでもか!
 
  最高の眺めでランチ
 
  寄り道したチョコレート屋さん
 
  これでも病院です
 
 
 
  カサ・バトリョ内部のステンドグラス
 
  カサ・バトリョの屋根はお菓子みたい
 
  すごくおいしかったイカ墨のパエリア
 


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