三河・佐久島アートプラン21
佐久島体験2002 祭りとアートに出会う島
 
栗本百合子展 写真リポート

  
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 

 
 
 

 
 
  
 

 
 
【関連情報】
 栗本百合子展
 栗本百合子展・制作記録



第1会場/
弁天サロン内・弁天ギャラリー

 
アーティスト・イン・レジデンスの模様など、制作過程のドキュメントや関連資料を展示。
 
 

第2会場/
佐久島漁協漁具倉庫

 
佐久島漁協漁具倉庫は、昭和15年に建てられ、当時盛んだった天草の集荷場およ び、ナマコ・モズク・ウニの加工場として昭和40年まで使用 されていた。現在は、当時の古い漁具の倉庫となっている。
 
今回の展覧会では、三会場ともアーティストが佐久島で強く感じた「色の印象」が作品をかたちづくる大きな要素となっており、「佐久島漁協漁具倉庫」では、佐久島の古い家並みの「黒」が使われている。
 
さらに、ここでは、天井の梁構造が、鏡に映ったように床面に再現されていて、普段見落としがちの建物を支える構造を、目の前で見、さらにその間を歩くことで、改めて感じる仕組みになっている。開け放たれた窓には、黒く薄い布が張られていて、そこから、港やその向こうに広がる海を眺めることができる。
 
本来ならば影の存在である天井の梁が、まさにかたちになって足元に横たわる。栗本百合子が、「黒い家並みの路地を歩くように、この空間を歩いてみてください」と語ったように、おぼつかない足取りでその間を歩いてみると、この狭い空間は思った以上の広がりを体験させてくれるだろう。
 
 

第3会場/
佐久島漁協漁集荷場

 
佐久島漁協漁集荷場は、昭和46年に建てられ、当時盛んだった海苔養殖の集荷場として昭和61年まで使用され、現在は海老漁のための網の補修、保管場所となっている。
 
ここで、使われているのは「海と空の青」だ。体育館のように広い集荷場の壁は、栗本本人の目線の高さで、空と海の色に塗り分けられている。位置によって、誰でも壁の色の境目と窓の外の水平線が一直線になるのを体験することができる。
 
佐久島は、遠くには渥美半島や知多半島、伊勢湾浮かぶ神島までを望むことのできるのだが、海に面した集荷場は、そのすべてを見渡すことができる。それは、ここが島であることを強く感じさせてくれる特別な場所なのだ。海に面した大きな扉に向かって伸びる木造の構造物は、かてこの扉から船まで収穫した海苔を直接運び込むためのものであり、作品の中では、意識や視点をより強く海へ向かわせる装置となっている。
 
 
 
 
床に開けられた四角形の穴も、かつてここから床下まで荷物を降ろすために使われていた。作品では、穴の底に水が並々と張られ、穴の上には強化ガラスが置かれて、水を見下ろすことができるようになっている。足の下でゆらゆらと揺れ、光を反射してきらきら光る水槽の水は、海の底をのぞいているような気持にさせてくれる。また、海に面していくつも開かれた窓から、たえず心地よい潮風が入ってくる。
 
 
このだだっ広い空間には、自然を改めて感じるための、いくつものささやかな仕掛けがほどこされていて、そこに置かれたベンチに腰掛けたり、窓辺を歩いたりしながら、時間や天候のもたらす変化を身近に感じることができるのだ。それは、考える以上に心地よい、楽しい経験になるはずだ。
 
夕日が水面に反射して、集荷場の壁を光で塗り替えているのを見た――。
 
 
 
 

第4会場/
共勢丸漁具倉庫

 
この小さな古い倉庫は、昭和30年代のはじめに建てられ、佐久島で漁業を営む 加藤忠之氏の個人倉庫として、現在も使用されている。
 
古く、暗かった倉庫の内部――天井、梁、壁、床のすべてを栗本は純白に塗り替えた。白は「光の印象」なのだ。けれど、この作品には、他にも印象的な色が使われていて、入り口の扉の外側の錆止めの赤茶色、高床構造になっているため、入り口から床下まで敷き詰められた新谷海岸の紫色の砂、窓からは、薄い白い布を通して、神社の木々の緑色が目を引く。
 
けれど、何といってもこの空間の記憶の多くを占めるのは、やはり白だろう。いや、「光」といった方がいいのかもしれない。
 
ここは、三つの作品の中で、もっとも小さな空間だ。栗本は、「できればひとりでここへ入り、静かに空間を楽しんでほしい」と語る。時間によっては、ひとつしかない窓から、陽射しが入ってくる。その時、空間は、光で溢れる。そこを訪れる者は、光に包まれるという希有な体験をすることができるだろう。そして、その体験は、たぶん、その人の記憶から、ずっと消えることはないだろう。
 
 
黒、青、白――。それぞれの色がそれぞれの佐久島を物語っている。色というシンプルな素材を通して、私たちはそこに込められたアーティストの思考に近づくことができる。同時に、そこにあって気付かなかった佐久島の別の姿に、近づくことができるのだ。
(文責:オフィス・マッチング・モウル 内藤美和)
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■主催: 幡豆郡一色町
■共催: 一色町大字佐久島・島を美しくつくる会
■企画・制作: 有限会社オフィス・マッチング・モウル

集荷場では、使われなくなったガス線が、海の青さの中に埋もれていた
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