次なる挑戦
　
さて、自分たちで磁石を作る、その磁石が方位磁石になる、という最初の実験は、みごと成功しました。次に木村さんが考えたのは、同じ理屈でもっと大きな方位磁石を作るということです。木村さんが取り出したのは、長さ25センチくらいの磁石です。それもたくさん。いったい何をしようというのでしょう？
　
　
それは無理じゃないでしょうか？　木村さん
　
「方位磁石は北を指す。人間が大きな磁石を手に持っても重力の影響で北を向くことはないけど、それを船の上でやったら北を向くんじゃないか？」木村崇人はこう考えました。それも、佐久島で漁師さんたちが使っている船で、しかも人間を乗せて……。理屈はそうだけど、人間が何人も乗ってそんなに簡単に船が方位磁石みたいに北をさすなんて――ありえなくない（語尾上げる）？
　
でも、さっきの針金磁石の実験は成功したよね？　針金＝巨大磁石、スチレンボード＝船、と考えれば、理屈は間違っていないような気がする。うん。でも、それって、船の重さや乗っている人間の重さが水に与える抵抗を計算しているわけじゃない。木村さんのお父さんやお兄さんは科学者だけど、木村さん自身はアーティストなので、計算より想像力の方が得意です。下のドローイングのように、きっと船のへさきは北を指すはず!?
　

　
巨大方位磁石大作戦スタート
　
島の漁師さんに船を用意してもらい、安全のため参加者のみなさんには救命胴衣をつけてもらいました。波があるとさらに水の抵抗が強くなるので、実験は弁天サロンの前の、西港の入り江の中でおこないました。風はほんの少し、そよ風程度です。
　
最初の船には、子どもと大人が漁師さんを含めて８名乗り込みました。入り江の真ん中辺りで船を止めて、磁石をつなげ、巨大磁石を組み立てます。そして、変化が起こるのを静かに待ちました。岸辺で見守る他の参加者たちも、木村理論に半信半疑のまま、じっと船のゆくえを見守ります。時間はどんどん過ぎていきました。
　
しばらくすると、船のへさきが少しずつ向きを変え始めました。「これって風のせい？」と思うような、よくわからない動きです。でも、そのうち確かに船がぐるっと回転しているように動きました。でも、まだそれが磁石の力なのかどうかわかりません。そのうち、船は北を指して、そこで止りました。
　
「北を指した後、惰性でもう少し回転した船のへさきがまた北に戻ったんだよ。びっくりした！」と漁師さんも驚いていました。実験大成功！　本当に成功するかどうか自信のなかった木村さんも笑顔になりました。メンバーを替えてもう一度挑戦してみましたがやはり成功。ちょっぴり感動のひとときでした。
　
　
実験の先にあるもの
　
もともと、このワークショップのプランは、木村さんの作品のためのドローイングから生まれました。ドローイングでは、電磁石なども使って、風見鶏が風の吹いてくるほうを向くように、北を向いている一人乗りの船が描かれていたのです。
　
船自体が方位磁石になって地磁気のかたちを見せてくれる――。私たちはそこで自然の中にある見えない力を見ることができるのです。アーティストのイマジネーションを通して…。

（文責：オフィス・マッチング・モウル　内藤美和）